大手商社、アジアの空港・港湾を開拓 インフラ事業育成、金融と相乗効果も




大手商社がアジアの空港や港湾運営の事業権獲得に動いている。三菱商事は民主化が進むミャンマーでマンダレー空港運営の事業権を落札。港湾に関しては三井物産がインドネシアで北カリバル新コンテナターミナルの優先交渉権を手中にした。資源価格下落を受けて大手商社は非資源分野の強化に取り組んでおり、長期安定収益につながる空港や港湾運営を電力事業や水事業に続く、新たなインフラ事業に育成する狙いがある。成長するアジアや新興国では空港や港湾の建設・整備資金を国だけでは賄えず、民営化、民間資金導入の動きが活発化している。大手商社各社は水面下で争奪戦に動いているが、案件ごとのリスクのほかに、国の支援を受けたライバルが立ちはだかり、日本勢は官民連携による戦略強化も求められそうだ。
 ミャンマーで8月初旬に実施された3空港の事業権入札で、三菱商事は日本航空系商社JALUXと組みマンダレー国際空港を落札した。JALUXのラオスでの空港運営実績に加え、商業施設で魅力を高め、古都の遺跡が集積する観光地マンダレーの集客力を今の3倍に高める提案力が実を結んだ。エレベーターなどの設備機器をはじめとする納入機材導入にとどまらず、「商業施設の誘致などで大手商社の総合力を生かせた」(三菱商事)という。
 三菱商事は国際協力機構(JICA)の協力を得て、大成建設・成田国際空港などと共同でベトナムのロンタイン新国際空港運営の事業化調査にも乗り出し、空港運営を新たな収益源にするための積極的な事業展開を進めている。空港運営への民間資金導入はアジアや新興国だけの話ではない。
 お膝元の日本国内でも、安倍晋三政権が6月の成長戦略に、PFI(民間資金活用による社会資本整備)改革を打ち出し、今年7月に空港の事業権売却を可能にする「民活空港運営法」が施行されたばかり。仙台空港、広島空港、高松空港の事業権売却が検討され、大手商社は「事業権獲得を目指す企業連合の一角に参画したい」(幹部)と意気込む。

新規分野として力を入れている金融事業との相乗効果もある。世界的に民間資金、年金資金はさまざまな社会インフラへの投資を拡大しており、空港運営も格好の投資先となっている。こうした民間、年金資金を取り込むため、三菱商事は英国の空港運営会社に若手社員を送り込みノウハウを蓄積し、カナダの公的年金基金などと組んで世界最大級のインフラファンドも設立。「将来はアジアの空港などのインフラ案件につなげたい」(新産業金融事業グループ インフラ金融事業部)考えだ。
 港湾運営では、三井物産がインドネシアで北カリバル新コンテナターミナル事業権の優先交渉権を取得した。10月にも船会社などと共同で合弁会社を設立し、事業化に乗り出す計画だ。インドネシアは日本企業などの自動車関連産業の進出ラッシュで、2030年までに取扱貨物量が現在の3.2倍に膨らむとの見通しもある。このため、北カリバルの第2、第3ターミナル事業権をめぐる受注合戦には三井物産、伊藤忠商事、三菱商事の企業連合が名を連ねているほか、チラマヤ新港の受注にも関心が高まる。
 とはいえ、空港や港湾運営は新興国ならではのリスクを無視できない。ミャンマーではマンダレーと同時にヤンゴン国際空港拡張、ハンタワディ新国際空港の入札が行われた。ヤンゴンには豊田通商や双日が挑んだが、これまでも空港運営を担ってきた地元企業アジア・ワールドが中国企業と連合を組んで落札。ハンタワディは新関西国際空港会社と大成建設が応札したものの、韓国の仁川国際空港連合にさらわれた。
 アジア・ワールドは、中国の支援で整備が進むチャオピュー港の建設を受注するなど、中国との太いパイプで知られる。韓国も日本以上のトップセールスを展開しており、日本勢は官民一体で受注戦略を練り直す必要に迫られている。
 例えば、ベトナム北部のラックフェン港は今年7月に円借款を受けて基礎工事に着手したが、官民連携で狙っていた港湾運営事業権をめぐる契約は宙に浮いたままだ。伊藤忠商事、商船三井、日本郵船の企業連合が基本合意目前までこぎつけながら、当初の現地パートナーが経営難に陥って計画は中断。新たなパートナーと交渉中だが、ベトナム側の政府保証などをめぐって協議が難航し、一筋縄ではいかない。
 国土交通省は4月、官民一体で空港インフラ受注を目指そうと、大手商社や空港会社など57社による協議会を発足させた。2010年には港湾インフラ受注に関しても同様の協議会を設けているが、中国・韓国勢にどう対抗し、アジア・新興国ならではのカントリーリスクをどうやって回避するか、課題は突きつけられたままだ。

(上原すみ子)


Posted by hnm on 木曜日, 8月 22, 2013. Filed under , , , . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0

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