日本商社の熱きインフラ争奪戦 舞台はミャンマー




旅客数が急増すると予想されるミャンマーのヤンゴン国際空港の拡張プロジェクトは欧米アジア企業の激戦区(ジェトロ提供)(写真:産経新聞)

丸紅と日立製作所が受注し、改修で今も稼働する2005年に完工したユワマ複合火力発電所=ヤンゴン市周辺



旅客数が急増すると予想されるミャンマーのヤンゴン国際空港の拡張プロジェクトは欧米アジア企業の激戦区(ジェトロ提供)


民主化が進むミャンマーで、大手商社などが空港や火力発電所などのインフラ整備事業を獲得しようと、しのぎを削っている。ミャンマーは、安価な労働力と人口6200万人の消費市場を抱える「最後のフロンティア」。電気、水道などのインフラの貧弱さが成長のネックとなっており、インフラビジネスを得意とする日本企業の出番に期待がかかっている。ただ、欧米や韓国の反転攻勢もあって予断を許さない状況だ。

 日本勢は、三菱商事がモンゴルの国際空港の円借款案件を受注するなど、空港建設の実績は多いが、運営の受注実績では海外勢に水をあけられている。経済成長を続けるアジアの空港は旅客数が増え、空港民営化の動きも加速。「この商機を逃さない手はない」(大手商社)と意気込む。

 ヤンゴン国際空港から北東約80キロのバゴー市で、2018年に共用開始を目指すハンタワディ新国際空港。総事業費1千億円ともいわれる巨大プロジェクトには、新関西国際空港・日本空港ビルデング・大成建設の連合と、日揮・チャンギ国際空港(シンガポール)の連合などが名乗りをあげる。だが、関係者はウズベキスタンなど海外空港運営で実績のある「韓国の仁川国際空港が一歩リード」と打ち明ける。

 今月中旬にも事業者が決まるとされるヤンゴン国際空港のターミナル拡張工事も、事態が変化している。年間旅客数を現状の2倍の600万人に増やす計画で、拡張工事に加え、運営権も民間に与える大型案件。現在は豊田通商・中部国際空港連合と日揮・チャンギ国際空港連合、仁川国際空港、現地企業グループに絞られた模様だが、米国企業がそこへ割り込み、混戦となっている。

 ヤンゴンに次ぐ第2の商業都市にあるマンダレー空港では、カンボジア3空港運営で実績のある仏建設会社ヴィンチの名前も取り沙汰される。三菱商事や住友商事、丸紅などの日本勢の受注が決まったヤンゴン郊外のティラワ経済特区(SEZ)の開発は土地の賃貸契約が難航するなど、計画が遅れ気味。その間に中国系企業がヤンゴン市に近い場所に工業団地を建設し、ここに日本のアパレルメーカーが進出を検討する動きもある。

日本とミャンマーは歴史的に良好な関係を築いており、ミャンマーへの経済制裁で表立って動けなかった欧米勢などより有利とみられていた。だが、そんな情勢は変わりつつある。米オバマ大統領は昨年11月、現職大統領として初めてミャンマー入りするなど関係改善に乗り出した。旧宗主国の英国キャメロン首相は昨年4月に、韓国の大統領もその1カ月後の昨年5月に、それぞれミャンマーを訪問するなど、関係改善に乗り出している。

 日本も手をこまねいているわけではない。国土交通省は4月、オールジャパンで突破口を開こうと、大手商社や空港会社、建設会社60社と官民連携で空港や航空管制など海外における航空インフラ受注を目指す協議会を立ち上げた。首相として36年ぶりとなった5月の安倍晋三首相のミャンマー訪問には、経済界から100人以上が参加。豊田通商の加留部淳社長や中部国際空港の川上博社長らが、日本の空港の総合力やサービスの良さをアピールするなど、積極的な活動を行った。

 だが、官民一体となった受注攻勢の成果は、はかばかしくないのが実情だ。6月末に実施された国際携帯電話事業の入札は、技術的に優位とされたKDDI・住友商事連合が敗れ、ノルウェーとカタールの企業連合にさらわれた。火力発電所の新規案件も難航している。円借款など政府資金を当て込んで案件獲得を狙う日本勢をよそに、中国や韓国勢は日本の技術で建設された火力発電所での新規案件などを受注した。

 5月の会談で安倍首相は「新しい国づくりを官民の力を総動員して応援していく」と表明。これに対し、テイン・セイン氏は高く評価した。「最も安定した信頼できる支援国は日本だ」(ミャンマー政府筋)との声もある。日本政府は民間企業の受注を後押ししようと、円借款510億円を含めた追加支援策を行う。水力から火力発電へのシフトを助言したほか、東京都が水道整備状況調査に協力するなど、日本ならではのソフト面での支援で巻き返しを狙っている。

(上原すみ子)


Posted by hnm on 日曜日, 8月 04, 2013. Filed under , , , . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0

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