ミャンマーが恐れる投機資金 国際協力銀行・執行役員 前田匡史




雨期を迎えたヤンゴン国際空港に降り立つと、蒸し暑さに息苦しさを覚えた。6月初めにミャンマーを再訪した。5月末に安倍晋三首相がミャンマーを公式訪問し、同国の民主化と経済発展を促進するために大型支援を約束。日本のプレゼンスが高まっている機をとらえ、具体的な取り組みを加速させるためだ。ヤンゴン市内は来るたびに車の数が増え、交通渋滞が激しくなっている。古い環状鉄道があるが、速度が遅く、安全面にも問題があり、近代化が喫緊の課題となっている。

 市内にはATM(現金自動預払機)らしきものがあるが、銀行間の決済ネットワークがないために送金ができず、現金自動支払機(CD)として使われているだけだ。それでもヤンゴン市内のホテルで今回初めて、クレジットカードを使うことができた。これまで米ドルの未使用紙幣しか使えなかったことを考えれば一歩前進だが、カード決済は4%の手数料が加算された。

 数年ぶりに首都ネピドーにも足を運んだ。飛行機の機内には日本人のビジネスマンの姿が目についた。「人工都市」ネピドーには片側10車線の直線道路がある。まるで滑走路のようだが、車はまばらでヤンゴンとは対照的だ。何人かの閣僚や副大臣と面談したが、ティラワ工業団地開発事業やヤンゴン国際空港拡張事業などの大型プロジェクトに加え、最大都市ヤンゴンの交通渋滞緩和や地価高騰対策の重要性を訴えていた。
ヤンゴン市内には有効活用されていない国有地や軍の保有地が虫食い状態で点在している。合理的な都市計画なしに乱開発するとひどいことになることが想像される。環状鉄道の近代化とともに、歴史的建造物を保存しながらコンパクトで機能的な街づくりをするマスタープランを日本が提案できないかと考えた。投機的資金も入り、既に地価はかなり高騰している。オフィスの賃料が東京都心部並みのビルもあるという。「このまま放置すると一般市民の不満が高まるのでは」と政府関係者が心配するのは当然だろう。

 英語を流暢(りゅうちょう)に話すセッ・アウン国家計画・経済開発副大臣も、「外国からの援助資金に加え、民間の直接投資が増えることが持続的な経済発展にとっては重要。しかし、投機資金が入ってバブルになることが懸念される」と話していた。私は、「合理的な都市計画を作り、土地の用途に応じて容積率などで必要な規制を行うと同時に、需要に見合うだけの土地供給を確保する必要があるだろう」と応じた。ミャンマーでは国有地を一括管理する仕組みがなく、各省でばらばらに保有しているようだ。既に韓国、香港資本などが入って国有地を共同開発し、ショッピングモールやコンドミニアムを造る商談が進んでいると聞いた。

 「欧米の経済制裁下で中国の影響力が強まった。しかし、中国の軍事顧問団を送る提案をミャンマー政府は断り、代わりに『中国に若手将校を留学させたい』と頼んだ。中国の軍事顧問団に全てを握られることを避けるための知恵だった。今度は経済面で中国の影響が強くなり過ぎないように細心の注意を払う必要がある」と友人のヤンゴン大学教授は語る。投機資金というと欧米のヘッジファンドを想像していたが、ミャンマーが恐れる投機資金は中国資本のことかもしれないと思い当たった。



【プロフィル】前田匡史

 まえだ・ただし 昭和32年生まれ。東大法学部卒業後、57年日本輸出入銀行(現国際協力銀行)入行。ワシントン駐在や資源金融部長、国際経営企画部長などを経て平成24年から執行役員。米ジョンズ・ホプキンス大客員研究員、原子力損害賠償支援機構運営委員なども務める。著書に『いまこそ、「不屈の日本」を信じるとき』(WAC BUNKO)など。




Posted by hnm on 土曜日, 8月 03, 2013. Filed under , , , . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0

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