どんな事業があっても、どれだけお金があっても、動かすのは人なので、人材が最も重要。日本人が中心に仕事しても、やっぱり優秀なミャンマー人がいないと動かない。この事業に関しては正直３年とかじゃ難しいけど、僕が１７年間走ってきた強みを一番活かせる部分だと思う。

Posted by hnm , , , 水曜日, 8月 05, 2015


17年間ミャンマーを走り続けて見えてきたもの J-SAT代表 西垣充氏

１７年間ミャンマーに根を張り、様々な事業を手がける西垣氏。日系企業の進出支援、企業へのミャンマー人材紹介、メディア取材のコーディネート、視覚障害者によるマッサージ店の経営等を通じて、幅広くミャンマーの発展に寄与している。ミャンマー関連のセミナーに登壇することも数多く、ミャンマーを最も知る日本人の１人と言っても過言ではない。「求められている限りミャンマーで働き続ける」と語る西垣氏のミャンマーに対する想いを伺った。


ーミャンマーに来られたキッカケが「旅」だったと伺ったのですが、そこで感じたものって何ですか？
西垣さん
「学生時代に就職決めてから、東南アジアを旅していた。意識的に日本人に会っていたんだけど、ベトナムで起業している人に出会った。当時、1994年でベトナムがドイモイ政策でちょうど活気づいていた時だった。その方に、『ベトナムで何かするならもう遅い。ミャンマーだったらほとんど日本人いないはずだから面白いよ』と言われた。
それまで、ミャンマーの場所も知らなければ、よく聞く『ビルマの竪琴』が何を意味しているかさえも分からなかった。全く無知識でミャンマーに来てみたら、本当に何もない。タイから飛行機１時間で『こんなに変わるの！？』って驚いた。それと、日本とミャンマーがこんなに繋がりがあることを全く知らなかった。ミャンマー人は日本のことを良く知っていて、友好的なのにこっちは何も知らない。
それからミャンマー人と深く関わって、勉強もたくさんした。友人の家に呼ばれて、メイドさんの扱いに衝撃を受けたり、案外簡単に人が死んでいくようなミャンマーの現状を見る中で、感覚的に『自分が何かやらなあかん』って思った。起業して金儲けしようっていうよりも、ミャンマーを変えたいと思った。」


ー国を変えたいって思って途上国に来る方は、NPO,NGO系の方が多いですよね。そこであえてビジネスを選択した理由ってなんですか？
西垣さん
「NGOでもなんでも良かったけど、今まで自分が育った環境を活かしたった。僕は就活の面接のときに『何をやりたい？』って聞かれた時に、僕は『コンサルで、荒んでいる商店街を直したい』って言った。僕がやりたかったのは、本当に困っている部分をどうにかすること。寄付に頼らず、継続的にミャンマーを変えるための事業をしていくためには、ビジネスという手法を使うのが一番だと思った。実際、ドナーを見ながらだと事業制約があり、限界があるとも感じていた。」

ー20年前に来た時のヤンゴンの様子を教えてください。今より何もないような状態だったんですか？
西垣さん
「ないですね。レストランは数少なかったし、ホテルもほとんどなかった。冷蔵庫は一応あったけど全然広まってなかったから、氷とバケツをレストランに持っていって、お客の前でビールを冷やしていた頃もある。
20年前と比べて一番変わったのは、物が増えたこと。特に、インターネットの力で簡単に情報共有できるようになったのはスゴイ。会社のホームページを始めた2000年あたりは、メールを送るのにも従量制で課金されていた。検閲が厳しくて、止まったりもしていましたよ。」

ー情報統制されてる中で、情報を売る側の立場のお仕事って大変そうですね。
西垣さん
「ミャンマーは、報道関係の人が自由に出入りできないから、情報発信が乏しい部分がある上に、偏ってしまう部分がある。ミャンマーの街の感じはずっと変わらないのに、日本ではどうしても「危ない国」というイメージがある。
だから、うちのホームページ（ヤンゴンナウ）では『ミャンマーは普通の国ですよ』といつも強調して、リアルな情報を発信しようとしている。ただ、その検閲っていうのがあるから、政府的に不適切な表現は省いて発信している。
実際、ミャンマーに来てみてハマる人はとても多い。昔から、バックパッカーの好きな国ランキングではミャンマーがベスト３に入っていましたからね。お客さんでも、『一度来て印象が良かったからまた来た』っていうリピート客が多い。
去年、タイの盲人マッサージ協会の方がミャンマーに来た時、「ミャンマーは良い国だ」って泣いてましたもん。隣国タイでも、イメージとリアルではそれぐらいのギャップがある。本当に行ってみないと分からないことだらけ。ネットの情報で行った気になるんじゃなくて、自分で見て、どう感じて、自分で判断するかが一番大切。人によって感じ方が違いますからね。」


 （取材コーディネート風景）

ー17年前にミャンマーで起業してからの話を聞かせてください。最初の頃は会社がつぶれるかつぶれないかの所で、長い間コツコツやってこられたとお聞きしました。今「ミャンマーが熱い」と言われるように“流れ”が来ていますが、それについては日頃からどのように考えていますか？
西垣さん
「人生と似ているかもしれないけど、会社の流れも良かったり悪かったりある、そこを上手く掴んでいくかが大事。でも、流れだけでは会社はやっていけなくて、流れ＋αが無いとダメ。起業しても10社に１社しか残らないから、人と同じことをやっても上手くいかない。人間の出来ることなんてたかが知れているから、自分の強みを分析して、その強みを活かすことに集中することが大事。
流れについては正直、不思議な所もある。ダメな時はいくらやってもダメ。不可抗力でトラブった時に出てきた悪い流れをいかに短くするかっていうのは、スタッフにも強く言っている。
例えば、旅行のお客さんがロストバゲッジすることがある。そんなの宝くじが当たるぐらいの確率なのに、そんな人に限って次々とホテルの予約ができないとか、車が来ないとか、トラブルが立て続きに起こる。逆に流れが来てる時は、その流れをいかに持続するかっていうのが一番大切。
失敗する法則はあるけど、成功する法則はない。成功する法則は何かっていうと、失敗しないように流れを読んで、自分が何をすればいいかを常に考える。なぜそれをやってきたのかを深く考えてやっていくことも大事。それって会社経営だけではなくて、人生もそうだと思うんですけどね。」

ー実際、いま流れは来てますか？
西垣さん
「ようやく滑走が終わって、離陸し始めたところ。今年が本当に重要で、何に注力していくかっていうのを決めているところ。今までは助走だけだから、やろうと思えばなんでもできる。問い合わせや、『これやりませんか？』という声がそこら中からかかってくるので、やはり注目度は高い。でもそんなの長くは続かないですからね。」

ーそれは２０年間走ってきた成果ですね。
西垣さん
「そうですね。よくいう『続けることは大事』という言葉は、めちゃくちゃ実感している。結局ミャンマーに来ている日本人も何人か日本に帰ったり、また戻ってくる人もいるけど、ちょっと違いますよね。話すことに温度差ができてしまう。続けるのが難しいんだけど、続けるためには失敗をしない。失敗しないためにはリスクヘッジをいっぱいかける。
僕らは会社員とは違うんで、キャッシュフロ一が一回止まったら終わりだから、どの事業がつぶれてもキャッシュフローが続くようにしないとダメですね。ようやく今、導入期から成長期に入る所で、どの分野に力を入れていくのか見極めているところ。いかにこの長い成長期を保てる事業を選び出して集中するかが、今年のうちの課題ですね。」

ーその注目している領域とは具体的になんでしょうか？
西垣さん
「一つは、人材です。コンサル業も続けていくけど、コンサル業ってうまくいけばいくほど必要なくなるかなって思ってる。究極のところ、会社は自分たちだけで回せるシステム作る方がいい。コンサルには最近新しい人が入ってきたけど、うちは知識量も経験も違うから、そこは勝てると思う。ただ、これが３年とか５年したらどうなるかって言ったら彼らも分かってくるし、新しく大手さんも来るので、そことは戦えない。
それよりも、別の部門じゃないかなって思って、たどりついたのが人材。どんな事業があっても、どれだけお金があっても、動かすのは人なので、人材が最も重要。日本人が中心に仕事しても、やっぱり優秀なミャンマー人がいないと動かない。この事業に関しては正直３年とかじゃ難しいけど、僕が１７年間走ってきた強みを一番活かせる部分だと思う。

ーミャンマーでは未だに働き口が少ないと聞きますが、これから外資がどんどん入ってきて、人材は求められるんでしょうね。
西垣さん
「人材の需要は増えるでしょうね。ミャンマー人は、知識が少ないだけで、メンタリティはスゴイ。ミャンマー人の中には仕事で徹夜する人もいる。うちのオフィスの奥の部屋に行けば、毛布とかあるんですけど、うちのスタッフも徹夜している時がある。あと、スキルアップの志向が高い。会社に行く前の朝７時に、会計学校に通っている人もいますからね。そういう生涯学習を大切にするって文化は、日本と近いと思う。


ミャンマーって昔は、日本よりも栄えてたんですよ。６０年前のこの辺の写真、今と一緒ですよ。1930年の東京とヤンゴンだったら、こっちの方が上ですよ。戦前にミャンマーに来ていた日本人の取材をしたんですけど、昔は日本よりこっちの方が稼げたから、その方は出稼ぎとしてミャンマーに来ていた。今ミャンマーにいる日本人って600人〜800人ぐらいだけど、戦前にどれくらいいたかっていうと、ヤンゴンで3000人ぐらいで、マンダレーで2000人ぐらいいた。
他にも仕事を通じて貴重な体験をした。元日本兵の方と話したり、ミャンマーで亡くなった日本兵の遺骨を一緒に探しに行ったり、戦後ずっと入れなかった日本軍とイギリス軍が衝突した所に60何年ぶりに日本人として入るとか。そういう所に入って、自分は伝える立場に立つ。わけ分からなくなりますよね。
『お前はこれをやりなさい』って“ミャンマーに求められてる気”もする。こういう気持ちが続いている限りは、ずっとミャンマーで働く。それが僕がこっちにいる理由でもある。自分が生かされているとも言える。生かされてる限りは、自分の役目をしっかり果たしたい。」

ーミャンマーに生かされている。。。
西垣さん
「みんな何かに求められている。でも、考えてないか、気づかないだけ。そこを考えないといけない。そうじゃないとチャンスが逃げていって、人生の幅が決まってしまう。多くのミャンマー人には夢はないですからね。夢見ても一緒で、農民の子は農民だし、上に上がるシステムがない。僕は、うちの子供にも『お前は特別や』といつも伝えてる。全然人間って平等じゃない。だから、良い所で生まれた人がやらないといけない。
人材ビジネスもここに関わっている。企業理念にも掲げているけど、『みんなが夢を実現できる社会が一番』って思ってる。せっかく生まれたなら良い夢見れた方が良いじゃないですか。生まれた環境で人生が決まるのではなくて、彼らも上に上がれるシステムを作りたい。」

ー最後に質問です。海外に出て働きたいけど、なかなか一歩踏み出せない若者に対して、メッセージをお願いします。
西垣さん
「最近では国境っていう概念が薄くなっていて、企業も人材も流動的になってきている。
海外で働くってなると『私、英語が….』ってよく語学をハードルに感じる人がいるけど、語学はあと付けであまり重要じゃない。外国人が日本語話せるから日本で働けるか、って言ったらそうではない。
とりあえず、経験することが大切。自分が失敗と思うまでは、失敗は失敗じゃなくて、成功するまでの過程。決して、事業を起こすのが良いというわけではないし、海外で働くことが良いとも思わない。でも、日本人っていう特性を活かしてほしい。
日本人として生まれたメリットを自分で考えるためにも、海外に出ることは重要。自分の目で見て、自分で判断して、自分どうなんだろうって考える。日本だけじゃなくて、色んな社会があるという現実を見てほしい。別に『将来、何やっていいか分からない』のは当たり前だけど、自分の感覚で『やらないといけない』って思ったら挑戦してほしい。失敗しても日本人だったら、絶対食べていけるから心配しなくていい。せっかく日本人として生まれたメリットがあるから、それを使うべきだと思う。」


（インタビュアー:リョウ　編集:ユーゴ）

《編集後記》
今となっては「最後のフロンティア」と評されて、注目されるようになったミャンマー。その地に17年も前から入り、コツコツ行動してきた西垣さんだからこそ言える説得力のあるメッセージばかりだった。僕自身も海外に出る中で「日本人のバリューをどう発揮するか」と考える機会を得てきた。西垣さんのように途上国に根を張り、日本人としての強みを発揮する人が増えてほしい。

《西垣氏関連情報》
◆ヤンゴンナウ（旅行•現地情報）
　 http://www.yangonow.com/jpn/index.html◆ J-SAT（コンサルティング•取材）　 http://www.j-sat.jp/◆人材紹介•派遣　http://jobmyanmar.jp◆Twitter　https://twitter.com/yangonow◆Facebook　https://www.facebook.com/nishigakim




Posted by hnm on 水曜日, 8月 05, 2015. Filed under , , , . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0

人気の投稿

.

2010 . All Rights Reserved. - Designed by