部品メーカーのミャンマー進出加速 韓国・台湾勢との競争激化…安価で優秀な人材確保へ



 民主化が進むミャンマーで、日本企業の進出が加速している。他のアジア諸国に比べて安価な労働コストが吸引力となっているのに加え、今年は日本とミャンマーが官民挙げて開発を進めているティラワ経済特別区(SEZ)が本格稼働するからだ。今年末には、ヒト、モノ、カネの移動の自由を推し進めるASEAN経済共同体(AEC)発足を控える。ミャンマー政府は、ハイテク関連産業の誘致に力を入れており、競争力強化を狙う電子部品や自動車部品メーカーなどの動きが目立つ。
 ◆安価な人件費魅力
 電子部品メーカーの新藤電子工業(東京都墨田区)は、最大都市、ヤンゴンに現地企業と合弁会社を設立し、5月から量産型の液晶パネル用フィルム基板を生産する。
 新藤電子は、同基板を生産する唯一の日本メーカー。ライバル関係にある韓国、台湾メーカーとの競争は激しさを増しており、勝ち抜くには人件費の安い海外での生産が絶対条件となっていた。中国・上海にあった工場を撤退した過去を踏まえて慎重に議論を重ねた結果、再進出先として白羽の矢を立てたのがミャンマーだ。
 その理由は、人件費を抑制しながら優秀な従業員を雇用できる点。ミャンマーは縁故社会で、グループ会社に日本の理工系大学院を修了したミャンマー人が所属するほか、新藤電子の顧問が現地の国家プロジェクトに関わっていたことも決め手となった。
 工場はヤンゴン中心部に立地する。現在、14人のミャンマー人スタッフを日本に呼び、主力拠点である那珂工場(茨城県那珂市)で立ち上げに備えた研修を実施している。「一様に能力も高く、必要不可欠な人材へと成長している」と、砂山竜大取締役は満足そうに語る。
 タムラ製作所(東京都練馬区)は昨年10月に現地資本と合弁会社を設立、トランスの生産体制を強化した。デンソーグループのアスモ(静岡県湖西市)は、インドネシアの子会社と共同で自動車用小型モーターの生産に着手している。

インフラの中でも特に電力供給が安定していないミャンマーでは、縫製や製靴といった電力を大量消費しない労働集約型の業種が主流だった。半導体製造工程で不可欠なクリーンルームの維持が困難なため、ハイテク関連産業にとってはリスクが大きい。実際、韓国・サムスン電子は、携帯電話工場の建設を計画していたが、電力供給を理由に断念していた。
 ただ、ASEAN諸国の中でも安いミャンマーの人件費は魅力的だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ヤンゴンの人件費はアジアの各都市と同様に上昇傾向にあるものの、一般工職の月額基本給は71米ドル(約8540円)。バンコク(タイ)の約5分の1、ホーチミン(ベトナム)の半分以下、プノンペン(カンボジア)の約7割の水準。中国・北京と比べ、7分の1以下だ。
 地の利も大きな要件となっている。液晶テレビ・パソコン、自動車製造の一大拠点となっているタイに隣接しており、運送コストを大きく削減できる。
 ◆インフラ投資も増加
 両国の投資環境をめぐっても改善が進む。日本とミャンマーが13年12月に署名した日・ミャンマー投資協定が14年8月に発効。ミャンマーにとっては民政移管後、初めての投資協定となった。ティラワSEZの総開発面積は約2400ヘクタールで、インフラが整備され、免税などの優遇措置もある。江洋ラヂエータ、フォスター電機など日本企業17社を含む32社が土地予約を契約済みで、今年夏をめどに一部開業する。
 一方、膨大なインフラ需要を見越した日本企業のインフラ投資も増えている。三菱商事はJALUXと組み昨年11月、マンダレー国際空港の運営を30年間請け負う契約をミャンマー政府と正式に結んだ。日本流の商業施設の併設で集客力をあげ、JALUXのラオスの空港運営実績のノウハウを生かす。
 三井物産はシンガポール資本のヤンゴンのタケタ発電所に44%出資した。既存発電所に日本企業が参画するのは初めて。KDDIと住友商事連合は、国営郵便・電気通信事業体と組み、携帯電話事業に参画。日本政府も国際協力機構(JICA)を通じて円借款を供与し、電力不足を解消する発電所や水道、鉄道インフラ整備を支援する。
 中国以外の国に投資する「チャイナ・プラスワン」の有力候補地として脚光を浴びつつあるミャンマー。だが、海外企業の進出ラッシュで「ヤンゴンではすでに人手不足になっている」(前ジェトロヤンゴン事務所長の水谷俊博氏)といい、今後の動向を注視する必要もありそうだ。

(佐竹一秀、上原すみ子)
SankeiBiz



Posted by hnm on 月曜日, 1月 12, 2015. Filed under , , . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0

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