[検証 ミャンマーブーム] ASEAN、インドをつなぐ日本の生命線 ミャンマー・ダウェーへの関与






「ASEANやインド、韓国、オーストラリアなどのアジア大洋州地域では2012年、自動車販売の全体市場が初めて1000万台を超えました。今後も大きな伸びが期待できます」。こう語るのは、同地域の統括会社アジアホンダモーター(本社・バンコク)広報担当の前原英人氏だ。

ミャンマー現地ルポ 駐在員が語る甘くない現実

 なかでもホンダはASEANのタイやインドネシア、インドで大幅な生産能力拡大を計画している。現地のニーズに合った車を造ろうと、開発部門の現地化も急速に推進、日本の研究開発拠点で設計図を作成する「世界統一図面」から「現地最適図面」に切り替えている。これに合わせて、日系サプライヤーではなくコストの安い地場資本の部品メーカーから調達を増やしているほか、FTAを活用してインドからタイに安い部品を輸入している。

 燃費効率を高めるエンジン周辺部品である「ターボチャージャー」をタイで生産しているIHIもインドから一部材料を輸入している。

 日本の自動車産業はこれまで、インドとタイに莫大な投資をしてきたが、両国がFTAを結んだことを契機に補完関係を構築する動きが始まった。トヨタ自動車もタイトヨタの棚田京一社長が今年4月からインド事業を新たに担当するようになった。

 こうした状況を受け、自動車産業を主要顧客とするある物流会社幹部は「今後は日本─ASEAN─インド─アフリカまでを繋ぐ『動脈』を作る局面に突入している」と見る。

 その「動脈」の中継地点として成長が有望視されているのが、タイの首都バンコクから西に300キロに位置するミャンマー南東部のダウェーだ。交通の要衝として知られる。

 インド洋に面したダウェーは大型船が出入りできる深海港の建設に向いていることから、ここに東南アジア最大級の経済特区を設け、250万平方メートルもの巨大な臨海工業地帯を建設する構想が生まれている。

 現在、インドシナ半島を横断する「メコン第二南部経済回廊(ベトナム・ブンタウ─カンボジア・プノンペン─バンコク)」と呼ばれる幹線道路があるが、延伸される形でバンコクとダウェー間が12年に開通したことでブンタウ─ダウェー間が貫通した。

 これは太平洋とインド洋がつながったことも意味し、ダウェーの東西の結節点としての位置付けがさらに高まった。実際、タイからインドなどに輸出する際には遠回りしてマラッカ海峡を通って船便で運搬していたが、ダウェーまでトラックで運べば、3~4日程度短縮できるという。

 ダウェーはこれまでタイのゼネコン、イタリアンタイ社が中心となって開発してきたが、資金的に限界があることから、12年からタイ政府とミャンマー政府が共同で開発していく方針に切り替えた。それでも、資金が足りない。両国政府が50%ずつ出資する投資管理会社は資金をわずか2000万バーツしか有していない。開発費は総額3000億バーツとの見方もあり、現状では海外からの強力な投資を受け入れなければ計画が先に進まないのが実情だ。


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[検証 ミャンマーブーム] ASEAN、インドをつなぐ日本の生命線 ミャンマー・ダウェーへの関与
だウェーの開発には1兆円以上の投資が必要
■内輪のメンツにこだわる日本政府

 5月22日に都内で開催された「タイ開発セミナー2013」で講演したインラック首相は「ダウェーはインド洋へのゲートウェイ」と地理的条件に優れていることをアピール、日本からの投資を促した。その直後、安倍晋三首相が日本企業を引き連れてミャンマーを訪問してテインセイン大統領と会談した際にも、ミャンマー側がしきりに日本に開発への参加を要請した。

 イタリアンタイ社長顧問の本田極氏はこうした現状について、「ダウェーの開発は東アジア全体の経済発展に寄与する。日本が東南アジアでイニシアティブを取りたいのならば、開発に積極参加することが国益につながる」と指摘する。シンガポールや韓国が開発への参入を狙っているとの情報もあり、日本はうかうかしていると、主導権を握るチャンスを失いかねない。

 ダウェーの開発は日本企業の競争力を向上させていくためにも意義がある。冒頭で述べたように、日本の自動車産業はタイとインドの連携を強める傾向にある。すでにタイは「アジアのデトロイト」と呼ばれ、日本車のシェアが90%近くある牙城だ。しかもトヨタはタイ工場で生産した車を世界100カ国、ホンダも50カ国に輸出している。モータリゼーションが勃興し始めたインドも「新興デトロイト」だ。

 経済産業省からタイ国家経済社会開発委員会に政策顧問として出向する松島大輔氏は「2つの『デトロイト』の邂逅であり、日本経済の生命線を握る開発プロジェクト」と述べる。

 ミャンマーは安全保障上も注目されている。同じくインド洋に面したヤンゴン北西400キロに位置するチャウピューでは中国が港の建設を進めている。しかもその近隣で採掘される天然ガス運搬用のパイプラインを中国・昆明につなげた。中国は陸続きでインド洋への出口を獲得することになる。「米国がミャンマーへの経済制裁を解除したのも、中国の影響力を低下させる狙いがある」と政府筋は見る。

 日本は昨年来、タイ、ミャンマー両国から何度もダウェー開発への参画を促されているが、政府や経団連の動きが一枚岩ではない。経団連はヤンゴン近郊のティラワ地区の開発に力が入り、ダウェーにまで手が回らない感がある。また、「政府系金融機関の国際協力銀行幹部がしゃしゃり出て米国の軍事関係者をダウェーに連れて行って米国の参加も促したことから、外務省や経産省などがへそを曲げた」(関係筋)という。今の政府や企業の動きからは、したたかな国家戦略は見えてこない。

 海外で利権を求めての各国間の熾烈な競争は水面下で激化している。政治と企業が国益を考え密接に連携し、相手国に息長く関わることが重要だ。



WEDGE7月号特集『検証 ミャンマーブーム』の一部を、ウェブで無料公開しました。
◎更地の「ティラワ」 vs ユニクロも進出検討「パティン」
◎中国と同化進む、パイプラインの街「ラショー」
◎「ダウェー」開発は東南アジアにおける日本の生命線

井上久男 (ジャーナリスト)


Posted by hnm on 日曜日, 6月 23, 2013. Filed under , , , . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0

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