中国がダメでも、東南アジアは日本になびかず




前回は、中国のバブル崩壊が、レアメタルの暴落から起きるのではないか、という説をとりあげた。今回は、中国がいかに周到に東南アジアをとりこみながら、レアメタル戦略を構築してきたかを、とりあげたい。だが、その一方で、地方間の競争をコントロールしながら経済成長するはずが、結局はバブルの発生を止められなかったことにも触れてみたい。

■ アセアンを視野に入れ、レアメタル戦略を描く中国

 前回のコラムでは、中国の数あるレアメタル取引所の中でも、雲南省のそれがいかに異彩を放っているかに言及した。だが、そもそも、なぜ雲南省が重要なのだろうか。実は、同省は、ベトナムやミャンマー、ラオスに隣接した大資源を有した開発途上の省であり、インドへのルート(昔の援蒋ルート)であり、地政学的に極めて重要な地域なのである。

 過去30年間は、中国の沿岸地域が急ピッチで開発されたが、雲南省(広西チワン族自治区と同様に)は最も発展の遅れた地域でもある。ここ数年は、私が中心となって、当社(アドバンストマテリアルジャパン、AMJ)でベトナムの開発やミャンマーの開発を進めてきたが、中国との国境では貿易特区ができており、中国経済の影響が著しい状況である。

 ミャンマーに関していうと、当社では5年前から、のレアメタル開発を進めてきた。北部のシャン族の地域では、すでに中国の民間企業があらゆるレアメタルを漁っていたので、我々の投融資は結局、陽の目を見ることなしに失敗してしまった。中国企業が現ナマで頬っぺたを叩くようにして鉱山からレアメタルを略奪するように持ち去るのである。ミャンマーの北部では中国元が日常生活レベルで流通しているし、言葉だって中国語が普通に使われているのだ。

■ 「中国封じ込め政策」は、東南アジアで機能するか

 安倍総理が今年1月のタイ、ベトナム、インドネシア、5月のミャンマー訪問において、事実上の「中国封じ込め」政策を強調していたことは記憶に新しいはずだ。だが、現場に近いほうの感覚からいわせてもらうと、中国封じ込めどころか、すでに周辺国家は、かなり中国化していることに気がついていないように見える。ただ、中国化といっても、中国一辺倒かといえば、そうでもないことも事実だ。

 たとえば、ベトナムだ。同国は、これまで6回も中国と戦った経験から、領土問題(南沙諸島や西沙諸島)においても、言うべきことは遠慮なくいいながらも、実にうまいバランスを取った外交関係を築いている。また、ミャンマーやラオスは、この数百年の歴史から、中国民族が侵入してきているので、言語も経済面でもすでに中国化が進んでいる。

 一見、日本の顔を立ててはいるが「中国封じ込め」政策とは名ばかりだ。各国は、本当は日本を「噛ませ犬」にするためにリップサービスしているだけである。競争をあおった、したたかなやり口である。

 その証拠に、どの国においても、日本のODA(政府開発援助)の予算がすべて「生き金」になるかというと、そうは問屋がおろさない。例えば、ミャンマーでは、「通信網緊急改善計画」では、住友商事とNECの連合軍が何とか契約を結んだが、一番おいしい携帯電話事業の免許入札では、確実視されていたKDDI・住友商事連合は落選した(同事業はノルウェーのテレノールとカタールテレコムが獲得。今後15年間の事業免許が付与された)。

 日本は対ミャンマー滞留債務の2000億円を免除し、およそ5000億円の債務を解消するほか、新たに円借款と無償資金協力を併せて総額910億円の追加ODAを今年度中に実施する。破格の支援を実行する日本が、携帯電話事業の入札で、なぜカタールやノルウェーごときに負けるのか理解に苦しむ。表立ってはいいにくいが、債務免除の見返りに、主力プロジェクトをあらかじめ約束させるのが裏外交の腕の見せどころではないのか? 日本国民の血税が「死に金」になっていることに、憤りを感じる。

■ 地方の競争で成長するはずが、逆に地方が足枷に

 だが、極めて戦略的に動いてきたはずの中国も、経済成長にかげりが見え始めている。すでに今年の年初から、中国の不動産市況の値崩れが加速し始めた。もしも、中国のバブルが崩壊するとすればシャドーバンキングの存在がそのトリガーを引くのではないか、とささやかれていた矢先である。

 習近平体制の中国では、今年になってから本格的に金融の引き締めを進めてシャドーバンキングへの資金流入を規制してきた。ところが、それが国内金利の上昇につながり、逆に資金の流入がストップしてシャドーバンキングの借入先が破綻する可能性も出てきたため、軟着陸をするために、規制を緩める方針を取ったようだ。
実際、年間のGDP成長率が7%を切ってくると、中国の国内景気の失速感が表面化しかねないといわれる(いまはすでに5%を割っているともいわれる)。それゆえ、中国は、地方分権化を進めながら、地方人民政府間のGDP競争を煽り、経済成長率の安定維持に努めてきたのだ。中国の経済運営の難しさは、常に経済成長シナリオを実現しているように見せないと、民衆の不満が爆発して、共産党政権を揺るがしかねない不安定さにある。

 昨年と一昨年の尖閣問題から発生した反日デモの際にも、学生の不満は日本に向っているように見えたが、実際には共産党の一党独裁の反対へのシュプレヒコールに向かったために、公安と軍隊を投入して、デモ隊の解散を命じたのは記憶に新しい。

 従って、嘘でも良いから「今日より明日が良くなる」とのとの幻想を抱かせるためなら中央政府は何でもやってきたのだ。

 地方政府に経済運営の権限を委譲させながら地方の省の間でのGDP競争をさせることは、自動的に発展スピードが期待できると考えた。これまで沿岸地域と比べて発展の遅れていた省の経済成長が実現し、自動的に経済格差も縮まるから、好都合に見えた。

 ところが、地方は信用不安があるため、中央の金融機関からは表立って資金の提供ができないことが表面化した。そのために、仕方なく闇の金融(シャドーバンキング)システムを引き続き、容認せざるを得なくなったのである。

 次回は、すでに市況が変調をきたしはじめ、取り返しがつかなくなりつつある、レアアース市場の破たんについて、報告したい。
中村 繁夫



Posted by hnm on 火曜日, 8月 13, 2013. Filed under , , , . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0

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