日本企業、海外エリート学生争奪戦 許されない“ガラパゴス化”




(フジサンケイビジネスアイ) 

日本企業がアジアの若手エリートの採用に意欲的に取り組んでいる。しっかりとした将来ビジョンを持って就職する優秀な新卒アジア人を採ることで、海外事業を任せられる要員の確保はもちろん、会社自体を活性化させてグローバル企業に変貌(へんぼう)させる狙いがある。ただ、優秀な若手人材の獲得競争は国際的にも激しさを増している。丁寧な人材育成という日本企業の強みを生かしつつ、欧米のグローバル企業に負けない「採用力」が求められている。

 リクルートの主催で8月に4日間、日本企業によるアジア人学生の合同採用選考会が東京都千代田区で開かれた。参加した学生は中国、韓国、インド、ベトナムなど6カ国・地域の140人。いずれも北京大、ソウル大、インド工科大など各国の一流大学生で、多くが母国語に加え日本語と英語が堪能だ。

 将来の幹部候補生を迎えたのは日本政策投資銀行や三菱東京UFJ銀行、サントリーホールディングス(HD)、楽天など日本人学生にも人気の大企業ばかり。外国人学生たちは適性検査と事前面接を突破した上で、希望する企業の面接を受けに来日した。

 中国の大連理工大で経営学と日本語を学ぶ金学江さん(23)は「子供のころから家電はすべて日本製。次第に日本で働きたいと考えるようになった」と話す。日本企業でビジネスのノウハウを身につけ、将来はASEAN(東南アジア諸国連合)で仕事ができればと考えている。

 採用する企業側の狙いは、事業の海外展開に必要なグローバル人材の確保はもちろん、「肌の色も国籍も違う人間同士で議論することで、新たなものを生み出せるとの期待がある」とサントリーHDの担当者が話すように会社そのもののグローバル化を狙っているのが特徴だ。こうした合同選考会は2010年から開催、参加企業は初回の22社から今年は100社以上に増えた。

 日本企業が海外拠点の現地責任者を、即戦力を狙って中途採用しても、日本独自の企業文化と折り合わずに苦労することが少なくない。このため、企業側は「新卒から採用し、日本と現地の双方を理解できる人材を育てたい」(採用担当者)との思いが強い。

新卒アジア人採用の動きは大企業に限った話ではない。東京商工会議所は6月27日、日本企業に就職を希望する留学生と中小企業とを仲介する合同説明会を東京都内で開催した。会場には中国をはじめアジアを中心に約320人の学生と製造業や情報通信、不動産、商社など36社が集まった。

 東商によると、「規模の小さな企業の参加も増えており、グローバル採用に意欲的な企業の裾野が広がっている」という。アジアで介護ビジネスを手がける企業の採用担当者は「タイやミャンマーに進出する際の現地リーダーがほしい。中小企業は国内で人材集めに苦労するが、アジアの留学生からは優秀な人材を得やすい」という。

 「日本経済の閉塞(へいそく)感などからこのままではいけないという意識が企業を外国人採用に走らせている」こう指摘するのは、リクルートワークス研究所の豊田義博主幹研究員だ。アジアの高学歴な学生は、日本人に比べて勉強量も多く、人生設計もしっかりしている。こうした人材を求め、日本人の新卒採用にこだわっていた日本企業も00年代半ばにはアジアの新卒採用に目を向けるようになったという。

 ただ、優秀なアジア人学生の採用ニーズは日本企業だけではなく、欧米や現地の企業も参加する国境を越えた争奪戦となっている。顕著なのがIT分野。インドや中国のIT専攻の学生をめぐっては、米フェイスブックなど世界大手IT企業と「初任給1000万円超を積んで取り合っている状態」(関係者)だ。

 豊田氏は「日本企業の外国人採用は試行錯誤の段階。現地大学との関係づくりやインターンシップなど欧米のグローバル企業が当たり前にやっていることができていない」と分析。「採用活動もグローバル基準に合わせていかなければ、優秀な人材を取り負けてしまう」と話す。

 大和総研の井出和貴子エコノミストは「高齢化が進み、労働力人口が減少していく日本にとって、若いアジア人の活用は重要なテーマ。アジアの成長を日本の成長につなげるには、受け入れの方法や姿勢も再考すべき時期」と人口構造問題から必要性を指摘する。

 一方で、外国人は企業を渡り歩きながらキャリアを積み、より高いポジションを得ようとする傾向が強い。経営理念を共有しながら将来の幹部候補生を育てる日本企業の考え方とは一線を画する。せっかく採用した優秀なアジア人をどうつなぎ止めておくかも課題だ。グローバル時代を迎え、日本企業は採用も“ガラパゴス化”しない努力を迫られている。

(滝川麻衣子)

Posted by hnm on 木曜日, 9月 05, 2013. Filed under , , . You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0

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